梅本さん

株式会社 ひかりタイプ 代表取締役 梅本 昌裕

親に迷惑をかけた学生時代

名称未設定

おじいちゃんが創業した印刷会社である「ひかりタイプ」を、おじいちゃん、父、母と10人くらいの社員でまわしていた。僕の家は姉と4人家族。親には叱られる事もなく甘やかされて育った。共働きで忙しかったが、おもちゃも服も、欲しいものはすべて買ってもらえた。そんな僕に母は、恥ずかしくない子供に育って欲しいと、そろばん・塾・ピアノ・習字・絵画など、たくさんの習い事に通わせた。
しかし、面倒くさい勉強よりも遊ぶ方が楽しくて、意義を感じられず逃げて全部続かない。親が家にいない事を良い事に、勉強をサボり、友達と遊び呆ける毎日。15歳の頃、おじいちゃんが心筋梗塞で急死してから、専務だった父が社長になり、さらに両親の仕事が忙しくなった。

 

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そこからさらに遊ぶ事がエスカレート。学校をサボって遊び、成績もドンドン下がった。親も夜遅くにしか家に帰ってこれなくなった事もあって、どれだけ勉強しなくても構ってもらえる事はなくなった。受験勉強をまったくせず、半強制的に通わされる事になった塾もサボる。推薦で高校に入ってもアルバイトをしてコンパに明け暮れる毎日。受験勉強もせず遊んでばかりで、卒業しても進学できる大学はなかった。

それでも両親は「自分選んだ道だから」と自由にさせてくれた。それ以上に仕事に追われていて、それどころではなかったのかもしれない。高校を出てグラフィックデザインの専門学校に通ったものの、個性的な人たちの集まりの雰囲気に馴染めなくて半年で退学。思えばずっと、嫌な事をやりたくなくて、少しでも楽な方に逃げる事の繰り返し。こんな僕を見て親も「さずがにこのままではいけない」と、仕事をさせて社会に出そうとした。

「ひかりタイプ」では人員もおらずまともな教育ができないと、18歳、父の紹介で、2年間だけ知り合いのコピー会社で働く事になった。初めての社会人経験。年上の方ばかりのアットホームな会社。父は社会人としての基本を学んで欲しいと思って送り出したのとは裏腹に、実際に行ったのはアルバイトの延長線上にあるような楽な仕事。紹介で入社した事もあって、みんなが気を使ってくれて楽しく仕事をする事ができた。責任を負う事もなく、ただ言われた仕事をして定時で帰り。

「仕事=作業」と言う勘違いをしたまま、20歳になって実家の印刷会社に戻る事になった。

 

社会人としての基本を教えてくれた恩人

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社員として「ひかりタイプ」に入社するものの、社長である父は営業に現場にてんてこ舞い。教育担当もおらず、息子という微妙な立場。父が昔、社員に対して怖かった事もあってまわりは腫れ物に触るようなスタンス。ミスをしても叱ってくれる人もおらず、知識も経験もない僕に敬語を使う。完全に会社を甘く見てしまっていた。

しばらくすると、仕事が終わりに朝まで飲んで遅刻して会社に昼から行ったり、仕事中にサボってパチンコに行ったりとやりたい放題。それでも誰も何も言われず、社内で完全に浮いてしまっていた。

23歳、こんな仕事を舐めくさっていた僕を変えてくれたのが、高校時代の同級生が働いているおしぼり会社の社長。「名刺を頼みたい」というキッカケから、あまりにも社会人としての受け答えができない僕を見かねて、その会社の社員研修に参加させてもらえる事になった。そのおしぼり屋さんの社長は、本当に僕を可愛がってくれた。

月2回・半年間の研修で、仕事のあり方、社会人とはあり方、お客様に対する感謝の気持ちを持つ大切さなど、社会人として基本的な事を学んだ。時には飛び込み営業を行う研修もあったが、同級生にカッコ悪い姿を見せたくないと、生まれてはじめて必死に食らいついて勉強した。

それがキッカケで、人並みな社会人になってそれなりに真面目に働くようになった。友人の紹介で知り合った彼女と25歳で結婚。子供も生まれ、会社でも昇進して営業やマネジメントの仕事をするようになって仕事も順調。幸せな毎日。

会社の経営状況はよくわかっていなかったが、それでもそれなりに会社はまわっていた。ボーナスとして車も買ってくれるような父。忙しい事はわかっていたが、会社の状況なんて全くわかっていなかった。

 

会社の状況を知って・・・父との衝突

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会社が危機的状況だとわかったのが32歳。友達の誘いで「社長の息子なんだから、経営の事を学んだ方が良い」と、愛知中小企業家同友会に行く事になった。そこではじめて学んだ経営の事。

一般的な社会人経験もほとんどなく、経営の事もまったくわかっていなかった僕がはじめて経営とは何かを学び、ひかりタイプがいかに何もできていない会社かをはじめて知る事になった。経営理念もなく、社員は自分の仕事に意義を感じられていない事。決算書を見ると会社も債務超過状態。

言われた通りの作業的な仕事をしていたらうまく行くなんて甘いものではなく、社員と一致団結して頭を使ってやっていかなければうまくいかない事を思い知らされた。
早速、会社に戻って父を問い詰めた。この会社の危機的状況をどうするのか聞いても、経営理念を聞いても「よくわからない」と言われてしまう。営業しかやった事はなく、経営の事を何もわかっていない父に対して呆れ果ててしまった。苦しい状況にありながら僕を育ててくれたにもかかわらず、「全部おまえが悪いんだ!」とひどく当たるようになった。会社の未来のための話し合いをしようにも、逃げられたり、はぐらかされたり。自分で何かを動く訳でもなく、すべてを社長である父のせいにしてクチを出すだけ。それで会社の雰囲気が悪くなっただけで、会社は結局何も変わらなかった。

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色々な人にアドバイスをもらっているうちに、いつまでも父のせいにしている自分に恥ずかしくなった。だったら僕に何ができるのか考えるようになった。そうして、父とお互い冷静に向き合い話し合いをした。そこで、はじめてわかった父の本音。父はずっと現場一筋だった。価格競争が厳しい印刷会社の中でも、父はお客様が困っていることを一生懸命解決してあげようと、赤字でも仕事をやっていたり、お客様に合わせて夜遅くまででも対応したりしていた。

お客様の事が大好きで、ずっと信頼してくれて付き合ってくれているお客様を裏切りたくない。でも経営は苦しい。息子にも社員にも誰にも言えない悩みを抱え、本当に苦しかったんだとわかって涙が止まらなかった。

 

父との和解。そして経営者として

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今まで孤独で頑張ってくれていた父を助けたい。34歳、倒産寸前の「ひかりタイプ」を、再建していくために、自分自身が本気になって経営をする事を決めた。

まず手を付けたのは、社員に本気の姿勢を見せるための情報発信と、再建に後ろ向きな社員の入れ替え。社員の言い分も痛いほどわかったが、それでも会社を再建していくためにはどうしても必要な事だった。そんな本気の僕を見て、父ははじめて「いつでも社長を変わってやるから」と喜んでくれた。
銀行との交渉で、リスケして、順調にキャッシュフローを改善し始める。売上も少しずつ増え、会社が存続していきそうな形は見えてきた。

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36歳、仕事が大好きだけど経営が苦手な父には会長として営業に専念してもらい、僕が代わって会社を継いで本格的に会社を変えていく決意をする。「ひかりタイプ」でやりたい事はなんだろう、できる事はなんだろうと、本気で考えて、社員みんなに意見を求めて出した答えが、「社員やお客様に会社を好きになってもらえる企業ブランディングのお手伝い」

僕もいまだに、社員との関わり方で困る時がよくある。それでも昔に比べればだいぶ良くなった。それは、「会社を再建したい!」「中小企業を元気するお手伝いがしたい!」という本気の想いを持って動き始めた事がキッカケだった。今まで険悪だった父とも、争う関係から、協力して助け合う関係に変わった。

父と2人で将来の話をしても、今までの僕と父との関係が嘘のように、「こんな会社になりたい!こんな商品・サービスでお客さんを元気にしていきたい!」と明るい未来の話で盛り上がれるようになった。また、我関せずというスタンスだった社員も、少しずつ理想の会社を作るために協力してくれるようになった。

どんなに業績が悪くても、険悪でも、きっと自分が「こうしたい!」本音を相手に伝えることから、本物の人間関係はスタートするんだと思う。

 

こんな経験をしてきた僕たちがやりたいこと

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今までの「ひかりタイプ」がそうだったように、結構多く中小企業の社員は「ただ生活のため・お金のために言われた事をやるだけ」になってしまっている。それは、社長、もしくは管理職にある立場の人が社員に「こうしたい!」と本音を語って行動できていない事が大きな理由だと僕は思う。

想いと共に本気で社員に語る。

それで社長や管理職が社員に「協力してほしい」と言う。

そしてそれを商品やサービスを通じてお客様に提供する。

この流れが社員に仕事のやりがいを与え、会社の事を好きになるキッカケになる。僕たちの会社が、社員一丸となって再建に向けて明るく前向きに動き出すことができたように、中小企業で働く人にもっと元気で楽しく働いてもらいたい。

こんな思いで、今、ひかりタイプがやっている事は、商品をテクニックで売るための販促物づくりではなく、そこで働いている人が、輝いている社員が、自信を持ってその想いを伝えるための販促物づくり。そしてその販促物を使って、会社の想いを伝えられるようになる人材の育成。今、印刷事業部と、研修事業部の2事業部体制で、お客様の光り輝く未来を実現するために向けて歩みはじめたばかり。

 

梅本さん講師写真

お客様に対して自信を持ってサービスを提供するには、まだまだ商品力・経験数がまだまだ足りない。

それでもお客様やパートナーと協力しあって、一歩一歩進めていけば、もっと中小企業を元気にするサービスを提供していく事ができるはず。
愛知県近辺で「働く人やお客様が会社の事を好きになる」というテーマで研修を行っている人や、その手助けになるような商品を持っている会社の情報があれば、ぜひ紹介してほしい。

 

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