何事も勝負事は勝った方がいいと思われがちだけど、

勝ったら勝ったで大変になるという現実がある。

 

例えば、

子供がオーディションを勝ち抜いて

芸能界デビューしたら嬉しい。

 

でもその先は大変。

 

レッスン・衣装・ヘアメイク・プロモーション・交際費・交通費 etc

お金だけで見ても、

毎年数百万単位で必要になる。

 

多少テレビに出るようになっても、

月に数万円しかもらえずに、

支出の方が多いなんて思いもしないはず。

 

自分より若くて優秀な人達からの突き上げがある中で、

いつまで続けられるかもわからずに不安は膨らむ。

 

 

スポーツでも一緒。

 

地方大会で優勝できるくらいになると、

練習・コーチ・道具代・遠征費用 etc

毎年100万円くらいはかかる。

 

兄弟が3人いたらその3倍。

 

みんなが憧れる

ほんの一握りのトッププレイヤーの下には、

そこに辿り着けないまま、

毎年多額のお金を使い続けて

ジリ貧になる人達が星の数ほどいる。

 

 

「お金がないなら途中で辞めたらいい」

と言われるかもしれないけれど、

子供が頑張っているのに

お金の問題で諦めさせたくないのが親の立場。

 

もちろん本人にとっても、

勝ってうまくいっていると思っているから、

そのために苦しんで頑張ってきた過去があるから、

今の立場を簡単には手放せない。

 

うまくいっている人ほど、

そこにかけてきたお金・時間・情熱を捨てて、

次に行きにくいもの。

 

「夢を諦めてはいけない」

というステキな言葉を信じて、

ほんの少しの可能性に賭けたくなって、

限界を超えて頑張ってしまう。

 

 

この構造は、

ビジネスの世界でも同じ。

 

競合との競争に勝って

シェアトップになれば

不安はなくなると思われがち。

 

でも、シェアが増えれば増えるほど、

商品の良し悪し以上に、

マーケットの変動で

売上が大きく左右されるようになる。

 

商品・サービスの質を高めたって

売上が言うほど上がらないばかりか、

逆に下がってしまう事もある。

 

規模が大きくなればなるほど、

自分達の努力だけでは

どうにもならない状況に追い込まれる。

 

多くのお客様・社員を抱えて、

そう簡単に撤退もできず、

先が見えない不安に

押し潰されそうになっている社長も多い。

 

 

 

勝負の世界は、よく見ると、

実は勝っている人の方が

困っているように思える。

 

負けている時は、

勝ちさえすればうまくいくと信じているために、

目指す方向が明確で不安が少ない。

 

うまくいかなくても、

負けていれば、簡単に諦めやすく、

過剰に時間・お金を使わなくて済む。

 

それは、一度も勝った経験のない

ギャンブルにはハマらないのと同じ。

 

自分で返せないほどの借金をしてまで

チャレンジする事はない。

 

その割に勝っている方は大変。

 

勝っているからといって

幸せを感じられているとは限らない。

 

うまくいっている実感がないと、

目指す方向を見失って不安になる。

 

でも勝っているからこそ、

なかなか途中で辞められない。

 

途中でもし、

勝てない相手に出会っても、

「次はこうすれば勝てるはず」

考えられるのが裏目に出るケースもある。

 

たとえ負け戦だとわかっていても、

「お金よりも夢の方が大事」

「これまでの努力をムダにはできない」

「次こそはうまくいくはず」

とギャンブルのように

使う時間・お金ながドンドン膨らんでいき、

会社・家計は火の車に陥りがち。

 

よく勝つ人ほど、勝てる力がある人ほど、

「ここぞ!」というお金を使いたくなる

チャンス・タイミングがたくさんあるために、

お金にも困る傾向は強い。

 

 

私も、たくさんの人を取材してきたけれど、

実際、本当にお金がなくて困っている人というのは、

外からはうまくいっているように見える人が多い。

 

お金は使うためにあると思えば、

チャレンジするからこそ困ると思えば、

それはある意味当たり前の事。

 

それなりに有名で収入もあるのに、

それ以上に投資をして困る。

 

プライドも高いから

お金に困っている素振りなんて見せにくく、

なかなか相談もできない。

 

勝てる勝負と思い込んでいる人だと、

自分がヤバい状況にある事さえ気付いていない事もある。

 

まわりもなかなか気付けない。

 

ただ、それが言うほど問題にならないのは、

勝っている人の方が珍しくて人数が少ない上に、

強がってなかなか発信しないから。

 

ホームレスとか、

入院費用が足りないとか、

わかりやすくお金がない人だと、

支援が集まりやすいのと似ている。

 

それに比べて、

年収1000万円以上あるのに、

「お金がない」

と言う人の話を聞いても

「また冗談言って」

「ただ贅沢してるだけでしょ」

と思われて問題視されない。

 

 

負けている人からすると、

勝っている人は羨ましい対象で勘違いしやすい。

 

勝っている人は、

その大変さをなかなか理解されず、

嫉妬されてムカつかれても

ある意味仕方のない事。

 

 

そう思うと、

勝負事は負ける方にもメリットがある。

 

社会が民主主義で回っている以上、

何事も多数派に属している人ほど、

共感されやすく、守ってももらいやすい。

 

勝ち続ける人よりも

負ける人の方が多いので、

負ける人の方が多数派。

 

子育て、恋愛関係、親子関係など、

みんなが経験して苦しんだ事のある悩みは

相談すればわかってもらいやすいのと一緒。

 

成功話よりも

失敗話の方がウケるのも同じ理由。

 

それが勝ち続けて

多数派から少数派になると、

一気に共感してくれる人・守ってくれる人は減る。

 

政治家、芸能人、起業家 etc、

きっとトップクラスになるほど、

周りからの評価と、

抱えている大変さとのギャップが大きい。

 

数の暴力で叩かれる事も増え、

悩みを相談できる人が減って孤独になりがち。

 

 

 

勝ち続けている人を見て、

「あの人はうまくいっている人だから」

と自分とは住む世界が違う人と思うのもいいけれど、

意外に大変かもしれないと思いを巡らせば、

きっと少し優しくなれる。

 

それで勝負に対する

コンプレックスも解消されやすい。

 

勝つ事が幸せとは限らないし、

負ける事が不幸だとも限らない。

 

勝った後の大変さに幸せを感じる人もいれば、

勝負にこだわらない自由さに幸せを感じる人もいる。

 

両方知った上で好きな方を選べばいい。

 

 

負ける事の価値も知る事で、

「勝たなければならない」

という過剰な執着は薄れる。

 

それが、勝つ事を手放せずに必要以上に苦しんだり、

必要以上の力が入ってうまくいかなかったりする課題を解決する

第一歩になるような気がします。