沈黙

 

レストランで隣の席にいた30代カップル。

 

女性慣れしていないけれど、

それでもなんとか場を盛り上げようと必死な男性と、

少し濃い目の化粧で、自分を良く見せようと頑張っている女性。

 

きっと結婚相談所経由での出会い。

聞こえてくる初々しくて微笑ましい会話。

 

私も昔はこんな感じだったなぁと、

ずっと忘れていた感覚を思い出した。

 

沈黙が怖くて、場を繋ぐために、

たいして興味のない事でも質問をたくさん用意して、

次から次へとデタラメにぶつける焼畑農業的コミュニケーション。

 

男:休日の過ごし方は?

女:映画とか好きでよく見に行くよ。

男:どんな映画が好き?

女:私、○○○が好き。

男:そうなんだ。○○○の映画って面白いよね。

女:そうなの。本当に面白くて。

(沈黙)

男:ところで料理はするの?

男:どんな料理が得意?

(沈黙)

男:ところで山は好き?

男:山に行ったらスキー?スノボー?

(沈黙)

 

男性が盛り上げようと頑張っているにもかかわらず、

女性ももっと仲良くなりたいという感じにもかかわらず、

会話は続かず男性は焦り、

女性もどうしていいかわからずにお互い気まずい状況。

 

ぎこちないその雰囲気に、

私だけでなく、まわりのみんなもきっと、

「頑張って〜!」

と心の中で応援してしていたに違いない。

 

男性が「何を?」ばかり聞いて

「なぜ?」と深堀りして聞かないから会話が途切れる。

 

なんとか沈黙を埋めようと、

用意してきた質問をドンドン消費していき、

関連性のないブツ切れの会話に盛り上がりもないまま、

最後には会話に詰まって逃げ出すかのようにデート終了。

 

その気持ちがとても良くわかって、

励ましてあげたくなった。

 

会話が苦手で緊張してしまう人が陥る沈黙恐怖症。

 

失敗しないように、会話を途切れさせないように、

どんな質問が盛り上がるかというテクニックに頼って、

頑張って話そうとするからこそ失敗してしまう。

 

 

新人の営業もこれに似ている。

 

「何を話したらいいんですか?」

と上司を頼って、自分が話す事ばかり準備していく。

 

相手が話をしているのに、目の前の相手をそっちのけで、

自分が話す事ばかり考えてしまう。

 

話している最中も、自分の事に精一杯で、

相手の反応を見る余裕がない。

 

たいてい自分自身では気が付かないけれど、

目の前の相手を機械と勘違いしているかのように、

独り相撲で、楽しくもなく、相手をガッカリさせる会話。

 

 

テクニックとして言えば、

「なぜを使え!」という事だけど、

根本的な問題は、相手に対する興味。

 

相手に対して、人として興味を持っていれば、

自然と「なぜそう思ったのか?」を聞きたくなる。

 

自分とは違う相手の考え方ややっている事について、

もっと突っ込んで聞きたくなる。

 

共感できるところまで、深く質問していけば、

どんな事でも分かり合えて嬉しくなる。

 

その結果、信頼関係が生まれ、

相手にも興味を持ってもらえて、

自分の話も聞いてもらえるようになる。

 

自分の話についても、

一生懸命伝えようと思えていれば、

多少ぎこちなくても、相手の反応を見ながら、

伝わるように伝える事ができるようになる。

 

 

コミュニケーションの基本は相手に興味を持つ事。

つまり、会話を楽しむ事。

 

失敗しない事を重視したマニュアル的なテクニックに目を奪われて、

その前提となる根本的な部分は、あまり教えられないのかもしれない。

 

仕事の目的は、

商品・サービスを通じて相手に喜んでもらう事のはずなのに、

相手に喜んでもらうために商品・サービスがあるはずなのに、

その相手に興味を持たないなんてもったいない。

 

営業や接客の仕事でも、社員同士や家族との何気ない日常でも、

会話を楽しめないなんてもったいない。

 

家族の会話をもっと楽しむ。

 

苦手と思っていたタイプの人にこそ、

「なぜ」を使ってもっと興味を持って質問して、

自分とは違う考え方を共感できるまで聞く。

 

思えば私もまだまだできていない。

 

気付きを与えてくれた30代カップルに感謝して

改善していきます。