捨てる

やりたい事をやる。

それだけなら簡単な話。

 

しかし、やりたい事をやる事で、

迷惑が掛かる人の事が気になったり、

嫌がる人の顔が頭に浮かんだり。

 

不器用で優しい人ほど、

色々考えてしまって動けなくなる。

 

何のリスクもなく、誰も傷付けずに、

自分の理想を叶える方法があるならば、

もうすでに見つけて実行しているはず。

 

でもそんな方法なんて見つからなくて、

それでもリスクを最小限に、誰も傷付けず、

やりたい事をやろうとするからこそ、

やりたくない事までやる必要が出てきて悩んでしまう。

 

社長が苦しむ理由はだいたいそう。

 

会社は現状維持では衰退する。

人口減少、競合や時代の変化に対応しなければ倒産に近づく。

 

現状がうまくいっていないならなおさら、

何かを変えなければいけない。

 

でも、

社員全員が喜ぶような仕事で、

他の会社よりも儲かって、

お客様に喜ばれるうまい話なんてない。

 

変化には痛みが伴う。

 

仕方がないとはわかっていても、社員はたいてい変化を嫌う。

 

特に今まで会社を支えてきてくれたベテラン社員ほど、

積み重ねたスキルを活かしにくく、精神的ストレスは大きい。

 

当たり前の事でも利害関係が一致せず、

争ってしまう事もよくある。

 

 

例えば、お客様にもっと喜んでもらう事。

会社として当たり前の話。

 

しかし、お客様に喜んでもらうには

頑張っている競合以上に

頑張らなければいけなくなる。

 

すると余計な新しい仕事が増えて、

嫌がる社員が出てくる。

 

社員の給与を上げる事だってそう。

そのためには仕事の効率化を図って、

生産性を高めなければならなくなる。

仕事はどうしても厳しくなる。

 

お客様一人一人に合わせた個別対応や、

ケースバイケースの対応ほど

非効率で見直しの対象になる。

 

今までと同じ対応はできなくなって、

社員にとってはストレスになる。

 

 

お客様や社員にもっと喜んで欲しくて、

改善しようとすればするほど、別の苦しみが生まれる。

 

前向きに動けば、付いて来られなくなる社員が出てくる。

動かなければ、徐々に会社は衰退し社員を路頭に迷わせてしまう。

 

どちらにしても、大切にしていた社員が、

不平不満を言って辞めていく。

 

 

そんな中で社長が見いだす理想郷。

採用・集客に困らず利益を確保できる地域一番店やトップシェア企業。

または資金繰りの悩みから一気に解放される上場。

 

そうなれば社員が家族に誇れるような知名度や、

業種によっては価格決定権まで持てる。

規模の論理で業務も効率化しやすくなる。

 

資本主義の理屈で考えればその戦略は正しい。

富はトップの企業に集中する。

 

しかし、それを本当に目指すのであれば、

ライフワークバランスなんて言っていられない。

 

大きな借金を背負って、

ある意味死にもの狂いのチャレンジ。

 

リスクを取って、批判されて、バカにされて、

それでも誰よりも必死に本気で打ち込むからこそ、

望む結果を手にする事ができる 。

 

「やればできる!」「頑張れば明るい未来がある!」

しかし、そんな理屈や正論は、なかなか社員に通じない。

なかなか出ない結果に、騙されていると感じる社員も出てくる。

 

遠い未来よりも目先の事を重視し、

やりたくない事はやりたくないと考える社員とは、

なかなかその想いを共有できない。

 

本気の社長と、本気になれない社員の溝は深くなり、

大切なはずの社員と争う事になってしまう。

 

社員のため、お客様のために頑張っている社長ほど、

報われないと思うような状況に陥る事があるけれど、

信じて付いて来てくれる社員と、その結果が見えた時に報われる。

 

 

でもこんな事は、社長でなくても同じ事。

 

時間は有限。使えるお金も限られている。

 

新しい何かをやるという事は、今までやっていた何かができなくなるという事。

 

誰かのためにもっと頑張ろうとすればするほど、

何かを捨てなければいけなくなる。

 

子どもが生まれて、子育てに力を入れるのであれば、

その分だけ必ず何かができなくなる。

 

やりたい事が見つかってそれをやろうとするならば、

その分、家族や会社に迷惑をかける事になる。

 

 

やりたい事をやるというのは綺麗な言葉だけれども、

それは何かを捨てて、何かをおそろかにして

他の誰かに迷惑をかける事と引き換えになる。

 

何かを手に入れるという事は、

結果、必ず何かを捨てている。

 

綺麗事だけではうまくいかない事もある。

 

それでも本音と建前を使い分けて、

うまくやっているのがオトナなのかもしれない。

 

 

全部を求めようとすればするほど、

他と同じ、平均的で特徴のない人や会社になる。

 

何かを捨ててでも何かに力を入れるからこそ、

自分らしさ・会社らしさをもっと出せるようになる。

 

 

充実した人生、面白い会社は、

思い切って何かを捨てる事から生まれる。

 

そんな気がする。