昔、「事件は会議室で起きているんじゃない!」という言葉が流行った。
今でも、「社長は現場をわかってない!」
という社員の愚痴はよく聞かされる。
そしてそんな現場の話は「そうだ!そうだ!」とまわりに共感される。
私も昔はなんとなくそう思っていた。
しかし、経営コンサルタント会社に就職して、
社長と仕事をするようになってすぐにわかったのは、
社長には現場の事以上にたくさん考える事があって、
現場の事だけ考えていてはうまくいかない現実があるという事。
特に現場出身の社長は現場の事が大好きだ。
お客様の気持ちもわかるし、社員の気持ちもよくわかっている。
ただ違うのは、現場は現状の課題を中心に考えているけれど、
社長はもっと長期的・多角的に、会社の事を考えているという事。
資金繰りの事、利益確保の事、業界の将来の事、人の出入りの事、万が一の事など、
現場の事だけを考えていては、なかなかうまくいかないからこそ社長は悩んでいる。
現場がやりやすくなる事、
お客様が喜ぶ事をやったからと言って
それが売上にすぐ直結する訳ではない。
費用対効果が合わない事ばかりやっていては、
人件費・経費が重荷になって、
競争に負けて社員を守る事もできなくなる。
社員が喜ぶ提案、お客様が喜ぶ提案だけをやって会社がうまくまわるなら、
社長が数字やそれに伴うリスクを考えなくて済むなら、
仕事はもっと幸せなものになるに違いない。
でもそういう訳にはいかなくて、
やりたい事をやる事ができなくて、
またやりたくない事までやらざるを得なくなって苦しむ。
それは誰かが悪いという訳ではない。
社長もただ”社長という役割”を責任を持ってこなしているだけで、
「現場は経営の事をわかってくれない!」
と愚痴を言いたくなるほど辛い立場にいる。
わかっていない社員ほど
「俺が社長だったら・・・」という事を言うけれど、
社員が普通に考えるような事はたいてい社長も考えている。
社長は社員が知らないデータ・情報を把握していて、
できない理由があるからやっていないだけだったりする。
今まで千人以上の社長と話をしてきたけれど、
ドラマに出てくるような悪い社長なんて見た事がない。
だから、社員は社長・上司を否定する前に、
やりたい事をさせてあげられないその気持ちを
ほんの少しだけでもわかってあげて欲しいと思う。
照れ臭くて恥ずかしくて社長は絶対に言わないけれど、
社長にとって社員は家族のようなもの。
そんな、社員の事を大好きだという社長の本音をきちんと伝えられれば、
会社はもっとあたたかいものになると思う。